■本件
■貸付金
主文
原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
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理由
上告代理人原口健、同久保田理子、同土井智雄、同設楽公晴の上告受理申立て理由について一 本件は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産したため、その破産管財人が破産法五九条一項によりゴルフクラブの会員契約を解除し、ゴルフ場経営会社に対し、預託金の返還を請求している訴訟である。
原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
1 上告人は、預託金会員制ゴルフクラブである「A1ゴルフクラブジャパン」(現在は、「A2ゴルフ倶楽部」と改称している。
以下「本件ゴルフクラブ」という。)を経営する会社である。
2 本件ゴルフクラブに入会を希望する法人は、一二〇〇万円の法人正会員資格保証金を上告人に支払うことにより、本件ゴルフクラブの会員資格を取得する。
3 本件ゴルフクラブへの入会に伴って発生する上告人と会員との間の権利義務関係は、次のとおりである。
本件ゴルフクラブの会員は、会員としてゴルフ場施設を優先的に低料金で利用し、入会に際して預託した資格保証金の返還を規約所定の据置期間経過後に退会とともに請求する権利を有し、年会費納入等の義務を負う。
4 株式会社Dは、昭和六三年一二月ころ、上告人に対し、法人正会員資格保証金一二〇〇万円を払い込み、本件ゴルフクラブの会員になった(以下「本件会員契約」という。)。
5 株式会社Dは、平成一〇年三月九日に破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に選任された。
6 被上告人は、平成一〇年三月二六日、上告人に対し、破産法五九条一項により本件会員契約を解除する旨の意思表示をした。
二 原審は、次のように判断して、被上告人の右資格保証金の返還請求を認容すべきものとした。
本件会員契約は、上告人が会員にゴルフ場施設を優先的に利用させる義務と会員が資格保証金を預託してその据置期間中上告人に運用を許し年会費を納入する等の義務とが対価的関係にある双務契約であり、会員が資格保証金の預託をして会員資格を取得した後においては、上告人が会員にゴルフ場施設を優先的に利用させる義務と会員の年会費納入等の義務とが対価的関係にある一種の継続的契約関係である。
ゴルフ場施設を優先的に利用させる義務と年会費等の支払義務は、対価的に本件会員契約が終了するまで継続するものであって、破産宣告当時、共に未履行であることは明らかである。
したがって、被上告人は、破産法五九条一項により本件会員契約を解除し、資格保証金の返還を求めることができる。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
1 前記事実関係によれば、上告人と本件ゴルフクラブの会員との間の契約関係は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの会員契約であるということができる。
右会員契約は、主として預託金の支払とゴルフ場施設を利用させる義務とが対価性を有する双務契約であり、その会員が破産した場合、会員に年会費の支払義務があるゴルフクラブにおいては、ゴルフ場経営会社の債務(ゴルフ場施設を利用可能な状態に保持し、これを会員に利用させる義務)と会員の債務(年会費支払義務)が破産法五九条一項にいう双方の未履行債務になるということができる。
しかしながら、【要旨一】破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。
この場合において、相手方に著しく不公平な状況が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、破産法六〇条等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである(最高裁平成八年(オ)第二二二四号同一二年二月二九日第三小法廷判決・民集五四巻二号登載予定参照)。
2 そこで、被上告人が本件会員契約を解除することにより上告人に著しく不公平な状況が生じるかどうかについて検討する。
預託金会員制ゴルフクラブの諸施設の整備は、通常は多数の会員から利払いの負担のない資金を調達することによって可能になるという経済的な実態があることは公知の事実であり、右実態にかんがみると、右会員契約関係においては、会員となろうとする者が預託金を払い込むことにより会員資格を取得し、ゴルフ場施設利用権を有するに至ることがその基本的な部分を構成するものであるということができる(最高裁平成三年(オ)第七七一号同七年九月五日第三小法廷判決・民集四九巻八号二七三三頁参照)。
預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合にその破産管財人による解除が認められることになると、ゴルフ場経営会社は、他の会員に対してゴルフ場施設を利用させなければならない状況には何ら変化がなく、また、特に本件のようにゴルフ会員権の市場での売却が著しく困難なゴルフクラブにおいては(この点は記録上明らかである。)、多数の会員のうちの一人が会員資格を失うことによりゴルフ場経営会社に利益が発生することは想定し難いにもかかわらず、本来一定期間(本件では正式開場日の翌日から起算して二〇年間であり、その期間満了の日が平成二五年六月一九日であることは記録上明らかである。)を経過した後に返還することで足りたはずであった預託金全額の即時返還を強いられることになる。
その一方で、破産財団の側ではゴルフ場施設利用権を失うだけであり、殊更解除に伴う財産的な出捐を要しないのであって、甚だ均衡を失しているといわざるを得ない。
ゴルフ場経営会社が、会員契約の解除によって生じる右のような著しい不利益を損害賠償請求権として構成し、これを破産法六〇条により破産債権として行使することで回復することは、通常は困難である。
また、会員契約の成立により、会員は所定の年会費の支払義務を負うこともあるが、その場合でも一般に年会費の額は預託金の額に比べると極めて少額であり、ゴルフクラブによっては会員に年会費の支払義務がない例があることも公知の事実である。
そうすると、本件会員契約のように会員に年会費の支払義務がある場合においても、その義務は、会員契約の本質的・中核的なものではなく、付随的なものにすぎないというべきである。
そして、破産財団が有するゴルフ会員権に預託金の額を超える価値があるような場合には、破産管財人は当該ゴルフ会員権を市場で売却することにより、解除権を行使するよりも有利な額で換価できることになるのであるが、市場における当該ゴルフ会員権の価値が預託金の額より低額である場合には、破産法五九条一項による解除権を行使することによって、価値の低いゴルフ会員権を失う対価として預託金全額の即時返還を請求し得るとすることは、著しく不当な事態を肯定することになるといわざるを得ない。
一方、破産管財人としては破産財団の減少を防ぐために年会費の支払を免れる必要があるが、そのためには本件会員契約を解除しなくても、会則の定めに従って退会の手続を執れば足りるのである。
【要旨二】これらにかんがみると、被上告人が本件会員契約を解除するときは、これにより上告人に著しく不公平な状況が生じるということができるから、被上告人は、破産法五九条一項により本件会員契約を解除することができないというべきである。
四 以上によれば、被上告人による本件会員契約の解除を認めた原審の判断には、破産法五九条一項の解釈適用及び本件預託金会員制ゴルフクラブにおける会員契約の解釈を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、被上告人の請求は理由がないから、第一審判決を取り消した上、被上告人の請求を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
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